「医師(勤務医)の残業代込みの定額年俸が有効か否かが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷は今月7日、「年俸に残業代が含まれているとはいえない」として、医師の請求を退けた2審の高裁判決を破棄し、未払い分の残業代を算定するため審理を高裁に差し戻した」という報道がありました。
訴えていた医師は、平成24年に病院側と年俸1,700万円とする雇用契約を締結。午後9時以降や休日は「必要不可欠な緊急業務」などに限って時間外賃金が支払われることになっていましたが、医師が午後9時までの残業代なども支払うよう求めていました。
一審、二審では、原告の医師の年俸が1,700万円と高額な点などから「基本給と区別できないが、残業代も含まれる」としていました。しかし、最高裁では、過去の最高裁判例を引用し、「通常賃金と時間外賃金(残業代)が区別できる必要がある」とした上で、今回の年俸契約ではこの区別ができておらず、残業代が支払われていたとはいえないと結論づけたようです。
今年3月、タクシー運転手の歩合給に残業代が含まれているか否かが争われた訴訟も、最高裁までもつれました。このときの最高裁の考え方は、「賃金規則で定めた独自の計算方法を使っても、同法が定めている水準の残業代が実質的に支払われていれば適法」といったもので、残業代が実質的に支払われていたかどうかを検討するため、審理を同高裁に差し戻したというものでした。
これらの最高裁の判例をみると、残業代込みの賃金(基本給に残業代を含める制度や固定残業代など)については、
□一律にそのような制度が無効ということではない。
しかし
□通常賃金と残業代とを区別できる必要があり、実質で判断すべき。
という考え方が貫かれているように見受けられます。
実質で判断されるので、労働者側勝訴のケースもあれば、経営者側が訴えを退けるケースもあるといったように、結論はさまざまになっていくかもしれませんが、重視されるのは、通常賃金と残業代とを区別できるかどうかです。
その区別ができないのなら、残業代込みの賃金を導入すべきではないということになりますね。
一時ブームを築いた固定残業代などの残業代込みの賃金。経営の見通しが立てやすいというメリットは残りますが、コスト削減はもちろん、事務の軽減というメリットも失われた感があります。今後さらに導入する企業が減るかもしれませんね。
なお、今回の最高裁の判断について、「働き方改革を巡る今後の議論にも影響を与えるのでは?」と報じている報道機関もあります。専門職でどんなに高給取りでも残業代は必要ということですから、”いわゆる高度プロフェッショナル制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)の導入に釘をさした”という捉え方もできるかもしれません。
3か月連続で月150時間以上、違法な残業で過労自殺 書類送検
「高速道路を管理運営する会社が、平成27年2月に自殺した男性社員に違法な長時間労働をさせていたとして、所轄の労働基準監督署が、同社と役員ら7人を労働基準法違反の疑いで書類送検していたことが遺族の代理人弁護士への取材でわかった。」という報道がありました(送検は6月23日付)。
代理人弁護士によると、男性は平成26年10月、職場を異動し、経験がなかった道路補修工事の施工管理を担当。遺族側が勤務記録などを調べた結果、時間外労働は同12月までに毎月150時間以上に達していたそうです。夜間工事の監督業務のため、未明に退勤して8分後に出勤した記録もあったということです。国の過労死ラインをはるかに超える長時間の残業です。ここまでの長時間の残業は稀かもしれませんが、過労死ラインを超えるようなことは絶対に避ける必要があります。
〔確認〕「過労死ライン」
これは、労災保険の業務災害の認定基準の一つである『脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準』における過重負荷の有無の判断の一つです。具体的には、次のように規定されています。
<労働時間の評価の目安>
疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間が長いほど、業務の過重性が増すところであり、具体的には、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて、
1.発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること
2. 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断する。
〈補足〉
ここでいう時間外労働時間数は、1週間当たり40時間を超えて労働した時間数である。上記の2.の部分が「過労死ライン」ということです。
なお、このラインを超えないようにするのは当然のことですが、上記1.に書かれているとおり、「おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できる」とされています。残業時間が45時間を超えるようなら、労使双方で残業時間が増えないように工夫するなど、その社員の健康に配慮した措置をとるべきですね。予防・防止が最善の策ですから。
参考までに、この認定基準のパンフレットを紹介しておきます。
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/040325-11.html